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2023年11月14日
心理的負荷による精神障害の労災認定基準
2023年9月1日付で「心理的負荷による精神障害の認定基準」が 改正されました。業務に起因する精神障害の、より適切な労災認定、審査の迅速化、請求の容易化を目的とした本改正のポイントについて解説いたします。
(1)業務による「※心理的負荷評価表」の見直し
心理的負荷評価表に以下の「具体的出来事」が追加されました。
・顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(いわゆるカスタマーハラスメント)
・感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した
心理的強度が「強」「中」「弱」となる具体例が拡充されました。
・パワーハラスメント6類型すべての具体例等を明記
※心理的負荷評価表:実際に発生した業務上の出来事を、同表の「具体的出来事」に当てはめ、ストレスの強さを評価したもの(2)精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲の見直し
業務外で既に発病していた精神障害について、悪化前おおむね6か月以内に、業務による「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したと医学的に判断されるときは、悪化した部分について業務との因果関係(業務起因性)が認められます。(3)医学意見の収集方法を効率化
労災認定までの期間短縮のため、複数の専門医による意見収集から、専門医1名の意見のみで決定できる事案が増えました。詳細につきましては、厚生労働省ホームページもあわせてご確認ください。
<厚生労働省>
心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました
人事労務 過去のお役立ち情報
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2023年10月13日
<解説動画あり>厚生労働省から「年収の壁・支援強化パッケージ」が公表されました
*解説動画はこちら2023年10月号 年収の壁・支援強化パッケージ
配偶者の扶養に入っているパートの方が一定収入を超えると社会保険への加入が必要になり、これを避けるための就業調整を「年収の壁」と称します。政府はこれが人手不足の一因と見なし、「年収の壁・支援強化パッケージ」という施策を発表しました。
- 具体的な「年収の壁」とは
(1)106万円の壁(被用者加入保険)
短時間労働者は年収約106万円(月額8.8万円)で社会保険に加入し、保険料を負担しなくてはなりません。
(2)130万円の壁(被扶養者認定基準)
年収130万円を超えると配偶者の健康保険・厚生年金保険の被扶養者からはずれ、自分で国民年金・国民健康保険に加入しなければならなくなります。
(3)配偶者手当
収入が一定額を超え扶養からはずれると、配偶者の手当が支給されなくなることがあります。 - 「年収の壁・支援強化パッケージ」の概要
(1)「106万円の壁」の対策
「キャリアアップ助成金」のコースが新設され、短時間労働者が手取り減少を気にせず働けるよう、手取りを増やす取り組みを行う事業主に対し労働者一人あたり最大50万円が助成されます。また年収106万円を超えた方に対し本人負担の社会保険料相当を補填する「社会保険適用促進手当」を支給することで、最大2年間手取り減少を防止できる仕組みを導入します。この手当は社会保険料算定の基礎となる報酬額に含まないものとなります。
(2)「130万円の壁」への対応
労働時間延長等に伴い一時的に収入が変動し、年収が130万円以上となる場合には、「事業主の証明」を添付することで、原則連続2回まで被扶養者として認定が可能になります。
(3)「配偶者手当」への対応
令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いの中で、配偶者手当の見直しが進むよう「見直し手順のフローチャート」が公表予定です。
年収の壁による人手不足は、多くの企業が直面し得る問題です。新しい施策を活用して、気持ちよく働ける環境を整えていきましょう。この制度の詳細は、厚生労働省ホームページをご確認ください。
〈厚生労働省ホームページ〉
年収の壁・支援強化パッケージ
「年収の壁」への対応策 - 具体的な「年収の壁」とは
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2023年9月15日
<解説動画あり>裁量労働制に係る新しい手続きについて
*解説動画はこちら2023年9月号 裁量労働制に係る改正
裁量労働制に係る省令・告示が改正され、2024年4月1日から施行されます。この改正に伴い、裁量労働制の導入および継続にあたり、実務にも大きな影響を与えることが見込まれます。今回は、比較的導入が進んでいる専門業務型裁量労働制(以下、専門型)の改正に焦点を当て概要および会社に求められる対応について解説いたします。
(1)労使協定に下記事項の追加が必要となります。
- 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること
- 制度の適用に同意をしなかった場合に不利益取り扱いをしないこと
- 同意の撤回の手続きを定めること
- 同意及び同意の撤回について労働者ごとの記録を保存すること
(2)対象業務に、いわゆるM&Aアドバイザリー業務が追加され、現行の19業務から20業務に拡大されます。
この改正により、これまで労使協定と就業規則のみで適用できた専門型も労働者ごとに同意を得るプロセスが必要となります。同意者と非同意者が混在するような場合には、それぞれ賃金計算方法が異なるなど、管理も複雑化することが予想されます。
なお、施行日以降に新たにまたは継続して裁量労働制を導入するためには、つぎの時期までに労働基準監督署に協定届の届け出を行う必要があります。
- 新たに導入する事業場 :裁量労働制を導入、適用するまで
- 継続して導入する事業場:2024年3月末まで
このほか、企画業務型裁量労働制についても改正があります。裁量労働制を導入している、又は導入を考えている方は、早めに今後の措置を検討することをお勧めします。
<厚生労働省>
リーフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」
https://www.mhlw.go.jp/content/001080850.pdf -
2023年8月14日
<解説動画あり>2024年4月改正 労働条件通知書の明記事項の追加について
*解説動画はこちら2023年8月号 2024年4月改正 労働条件明示のルール
2024年4月から、労働条件明示のルールが改正されます。労働基準法施行規則第5条第1項に規定されている「労働契約の締結・更新時に使用者が労働者に明示すべき事項」に、新たに4つの項目が追加されますのでご紹介いたします。
- 【就業場所・業務の変更の範囲】
全ての労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、将来の配置転換などによって変わり得る場合はこれらの「変更の範囲」についても明示が必要となります。 - 【更新上限の有無と内容】
有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働 契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要となります。なお、最初の契約締結後に新たに更新上限を設ける、または短縮する場合は、新設・短縮をする前に説明を行う必要があります。 - 【無期転換申込機会】
有期契約労働者の※「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)の明示が必要となります。 - 【無期転換後の労働条件】
有期契約労働者が無期転換の申込をした場合の無期転換後の労働条件を明示することが必要となります。特に労働条件の決定に当たり、他の通常の労働者(正社員や無期雇用フルタイム労働者など)とのバランスを考慮した業務内容・責任の程度・異動の有無などについて、労使間での誤解が生じないよう有期労働者に説明するよう努めなければなりません。
※「無期転換申込権」・・・労働契約法18条1項において定められた、同一使用者との間で2以上の有期労働契約が通算5年を超えて更新された際、労働者からの申し出により期間の定めのない労働契約に転換できる権利
明示事項の追加に伴い、労働条件通知書の整備が必要になりますので、改正に先んじて今のうちに準備を進めておきましょう。
<厚生労働省>
リーフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001080267.pdf
モデル労働条件通知書の改正イメージ
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001080104.pdf - 【就業場所・業務の変更の範囲】
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2023年7月14日
<解説動画あり>健康保険被保険者資格取得届等のマイナンバー記載の徹底
*解説動画はこちら2023年7月号 社会保険手続書類へのマイナンバー記載の徹底
健康保険法施行規則等の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第81号)が令和5年6月1日から施行されました。この省令改正による手続事務への影響を確認しましょう。
- 主な改正の内容
- 資格取得に関する届出について、個人番号の記載義務を明確化する。
- 事業主は、資格取得届に関し、被保険者に対して個人番号の提出を求め、又は記載事項に係る事実を確認することができるものとする。
- 保険者は、届出を受けた日から5日以内に、被保険者等の資格情報を、社会保険診療報酬支払基金又は国民健康保険団体連合会に提供する。
この省令改正により、健保組合等はマイナンバーを含む資格情報を5日以内に提供するため、事業主にマイナンバー記載の徹底を求めることとなりました。
- 健保組合への届出
事業主は、事実発生日(取得日・扶養開始日)から5日以内にマイナンバーを記載した資格取得届・被扶養者異動届を健保組合へ届け出ることとされています。入社予定の従業員には、内定から入社までの間にマイナンバーを提出してもらい、期日までに届出ができるようにしましょう。
また扶養追加の手続きの場合も、従業員には対象家族のマイナンバーを速やかに提出してもらう必要があります。特に出生の場合、マイナンバー記載の住民票を取得することで、個人番号通知書を受け取るよりも早くマイナンバーを確認することができます。
マイナンバーの収集を外部へ委託している場合は、より早期に収集できるよう収集フローの見直しを行うことも効果的です。
なお、住民票に記載されている漢字氏名、カナ氏名、生年月日、性別、住所が記載されていればマイナンバーの記載がない届出も受け付ける健保組合もある ので、加入されている健保組合の運用を確認してみるのもよいでしょう。
<厚生労働省 健康保険法施行規則等の一部を改正する省令の公布等について(通知)>
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T230601S0030.pdf - 主な改正の内容
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2023年6月15日
<解説動画あり>マイナンバー改正法案の成立 健康保険証を廃止しカード一本化へ
*解説動画はこちら2023年6月号 2023年6月 マイナンバー改正法案の成立
2023年6月2日に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律」(改正マイナンバー法)が可決・成立しました。
これにより2024年の秋を目途に、現行の健康保険証は廃止となります。今回は、「マイナンバーカードの保険証利用」と「マイナンバーカードと健康保険証の一体化」について取り上げます。
- マイナンバーカードの保険証利用
マイナンバーカードの保険証利用は、2021年10月より運用がスタートしています。マイナンバーカードに保険証の利用登録を行ったものを「マイナ保険証」といい、2023年6月4日時点での「マイナ保険証」の登録件数は約6,334万件となり、マイナンバーカードの保有者のうち約69.3%が保険証の利用登録を完了しています。(出典:デジタル庁「政策データダッシュボード(ベータ版)」)
「マイナ保険証」を持参すれば健康保険証がなくとも医療機関・薬局を利用できますが、現時点では全ての医療機関、薬局で使用できるわけではなく、オンライン資格確認が導入されている医療機関・薬局に限られています。 - マイナンバーカードと健康保険証の一体化
政府は2024年秋を目途に、マイナンバーカードと健康保険証を一体化し、紙やプラスチックカードの健康保険証を廃止することを決定しました。
これにより、「マイナ保険証の使用」は事実上、義務化となりますが、一方でマイナンバーカードを持たない人、持っていても保険証の利用登録を行っていない人、紛失した人が保険診療を受けられるように、健康保険組合などの保険者が申請に基づき保険証の代わりとなる1年間有効の「資格確認書」を無料で発行する予定となっています。また、発行済みの従来の健康保険証は、廃止後の最長1年間を有効とする経過措置も設けられる予定です。 - マイナ保険証のメリット
マイナ保険証は次のような活用ができます。
1.データ基づく診療・薬の処方が受けられる
初めての医療機関でも、これまでの診療データを確認しながら診療・治療を受けることができます。
2.転職などをしても健康保険証として使える
新しい医療保険者への手続きが済んでいれば、マイナンバーカードでそのまま受診することができます。
3.高額療養費の手続き省略
マイナ保険証を利用できる医療機関では「限度額適用認定証」は不要となり、窓口での支払いが自己負担限度額までとなります。
4.確定申告の医療費控除手続きの自動化
従来の領収書を保存する必要がなく、マイナポータルとe-Taxを紐づけることで、医療費通知情報が自動で入力され、医療費控除の申告が簡便に行えるようになります。
マイナ保険証については、別人の情報をひも付けるなどトラブルが相次いでいますが、人事・労務担当者はそのメリットを理解し、健康保険証廃止に向け、マイナンバーカードの取得やマイナ保険証への切替、「資格確認書」の発行などについて、社員へのアナウンスが必要となります。
また、会社が行う健康保険の資格取得手続きは従来通り必要となりますので、資格取得手続きの様式や運用変更など、保険者からの情報を注視し、早めに対応を講じるようにしましょう。
<厚生労働省>
マイナンバーカードの健康保険証利用について
<デジタル庁>
マイナンバー法等の一部改正法案の概要 - マイナンバーカードの保険証利用
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2023年5月12日
<解説動画あり>令和4年度の確定保険料の算定方法について
*解説動画はこちら2023年5月号 令和4年度 労働保険年度更新
令和4年度は雇用保険料率が年度の途中で変更されたことに伴い、労働保険年度更新における確定保険料の算定方法が、例年と異なる場合があります。原則の手続きと併せてしっかり確認しておきましょう。
- 労働保険年度更新とは
労働保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間を単位(保険年度)として、労働者に支払われる賃金総額に、事業の種類ごとに定められた保険料率を乗じて、保険料を決定します。 保険料は前払いで、年度当初におおよその賃金総額で1年分の概算保険料を申告・納付した後、年度末の最終的な賃金総額で確定保険料を算定し、前払いした保険料の精算を行います。事業主は毎年、前年度の確定保険料の精算と当年度の概算保険料を併せて申告・納付する必要があり、この手続きを「年度更新」と言います。 - 手続き期間・申告方法
「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」(以下、申告書)を作成し、毎年6月1日から7月10日までの間に、所轄の労働基準監督署、都道府県労働局または金融機関へ提出します。 - 令和4年度の確定保険料算定方法
- 一元適用事業・二元適用事業(雇用)
※例年と異なります※
労働者に支払った賃金総額の千円未満を切り捨てた額(保険料算定基礎額)を前期(令和4年4月1日から同年9月30日)と後期(令和4年10月1日から令和5年3月31日)に分けて集計します。前期・後期の保険料算定基礎額に、労災保険料率と雇用保険料率を乗じて保険料を算出します。前期と後期の保険料を合算した額が、確定保険料となります。この変更に伴い、申告書に新たに「期間別確定保険料算定内訳」欄が設けられています。 - 二元適用事業(労災)
例年の算出方法に変更はありません。
- 一元適用事業・二元適用事業(雇用)
詳細につきましては、厚生労働省リーフレットをご確認ください。
- 労働保険年度更新とは
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2023年4月13日
<解説動画あり>職場における学び・学び直しの「リスキリング」について
*解説動画はこちら2023年4月号 リスキリングの必要性
「リスキリング」は岸田内閣の総合経済対策の一つである「構造的な賃上げ」の実現に向けた取り組みの一つとして盛り込まれたこともあり、報道で耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。今回は、昨今注目の集まる「リスキリング」について解説します。
- リスキリングとは
英語では「Reskilling」と表記されるように、働き方の変化よって今後新たに必要となる技術やスキルを身に着けることをいい、職業能力の再開発、再教育を意味します。 - リカレント教育とリスキリングの違い
どちらも「学び直し」としての意味合いを持つ言葉として注目されていますが、両者の概念には違いがあります。
- リカレント教育
一度仕事を離れて大学などの教育機関に戻り、専門知識や技術を習得して復職すること - リスキリング
企業が事業戦略の一環として従業員に対して、新たな分野で必要となる知識及び技能を習得させること
つまり、リカレント教育は新しく何かを学ぶために一度キャリアを中断することが前提となるのに対して、リスキリングは仕事を続けながら新しいスキルを習得することで、会社の事業上の成果につなげることに主軸が置かれています。
- リカレント教育
- DXとリスキリングの相関関係
DX(デジタルトランスフォーメーション)などによる産業構造や企業戦略の変化において、新たに必要となる業務・職種に対応できる人材を育成するという点でリスキリングの重要性が増しています。日本におけるリスキリングの取組みとして2022年11月に帝国データバンクによる公表では、DX取組企業のうちリスキリングの取組割合は81.8%に上るのに対し、DX未取組企業のリスキリング取組割合は32.2%となっており、DXを推進している企業の方がリスキリングにも取り組んでいるという相関関係があることが分かります。 - リスキリングの支援
リスキリングの導入方法としては、オンライン研修やeラーニング、ワークショップが挙げられますが、2022年12月に研修費用や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度として人材開発支援助成金に新しく「事業展開等リスキリング支援コース」が創設されました。「リスキリングに興味はあるけど、コスト面でなかなか手が付けられない」という企業にとって最適な助成金といえます。活用を検討してみてはいかがでしょうか。
IT・データ分野を中心とした専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業省大臣が認定する制度として「リスキル講座(第四次産業革命スキル習得講座)認定制度」の創設、官民一体でリスキリング機会の創出を目的とした「日本リスキリングコンソーシアム」が発足されるなど、今後、リスキリングへの関心はますます高まるものと思われます。リスキリングの普及及び動向が注目されます。
<厚生労働省ホームページ>
「人材開発支援助成金に事業展開等リスキリング支援コースを創設しました」<帝国データバンク>
「DX推進に関する企業の意識調査」<日本リスキリングコンソーシアム>
https://japan-reskilling-consortium.jp/ - リスキリングとは
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2023年3月15日
<解説動画あり>障害者の法定雇用率引き上げについて
*解説動画はこちら2023年3月号 2023年4月 障害者雇用率の改定
企業に義務づけている障害者の法定雇用率を現在の2.3%から大幅に引き上げられることが決定されました。合わせて、事業主支援の強化として助成金の新設・拡充策が発表されています。今号では主な変更点について、解説します。
- 障害者の法定雇用率が段階的に引き上げ
変更後の法定雇用率は2.7%となるものの、引き上げ幅が大きいため2023年4月以降の法定雇用率は現在の2.3%で据え置かれ、2024年4月から2.5%、2026年7月から2.7%と段階的な引き上げが予定されています。この引き上げにより、1人以上の障害者を雇用すべき事業主の範囲が以下のように広がります。
・2023年4月~ 従業員数:43.5人以上
・2024年4月~ 従業員数:40.0人以上
・2026年7月~ 従業員数:37.5人以上 - 除外率の引き下げ
障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種(建設業、道路貨物運送業、医療業等)について、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除(障害者の雇用義務を軽減)する制度があります。この除外率制度は廃止が決定しており、経過措置として段階的に引き下げ・縮小が行われています。2025年4月から10%引き下げられる予定です。 - 国による事業主への支援策強化
雇用率引上げの影響を受ける事業主への支援策として2024年4月より、既存の助成金の拡充や新たな助成金を制度化することが検討されています。併せて、法定雇用率の算定に含めることのできる労働者について、現在は週の所定労働時間が20時間以上の障害者を対象としていたところ今後は「週10時間以上20時間未満」で働く精神障害者、重度の身体障害者及び重度の知的障害者についても、法定雇用率の算定対象とすることが可能となります。
<厚生労働省ホームページ>
「障害者の法定雇用率引き上げと支援策の強化について」 - 障害者の法定雇用率が段階的に引き上げ
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2023年2月14日
<解説動画あり>2023年4月から男性の育児休業等の取得状況公表が義務化されます
*解説動画はこちら2023年3月号 2023年4月 障害者雇用率の改定
2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月から段階的に施行されています。今改正は男性の育児休業取得を推進する点に重きが置かれており、2023年4月の施行では従業員数が1000人を超える企業を対象に、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられています。ここでは、企業に求められる対応について解説します。
- 対象となる企業
常時雇用する労働者数が1000人を超える事業主が対象となります。 - 公表内容
公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度(公表前事業年度)における次の(1)または(2)のいずれかを選択して公表します。
- 男性労働者の育児休業等の取得割合
育児休業等を取得した男性労働者の数÷配偶者が出産した男性労働者の数 - 男性労働者の育児休業等及び育児を目的とした休暇の取得割合
(育児休業等を取得した男性労働者の数+小学校就学前の子の育児を目的とした休暇を取得した男性労働者)÷配偶者が出産した男性労働者の数
- 男性労働者の育児休業等の取得割合
- 公表時期
公表前事業年度の終了後、おおむね3か月以内に公表します。実際には、2023年4月1日以後に開始する事業年度から対象となります。
(例)事業年度が4月~翌年3月の場合
2022年4月~2023年3月の実績をおおむね2023年6月末までに公表 - 公表方法
インターネットの利用やその他適切な方法で一般の方が閲覧できるように公表することが求められます。自社のホームページ等のほか、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」で公表することも推奨されています。
今回の改正は大企業が対象となっていますが、中小企業においても積極的に公表することで男性の育児休業に対するポジティブなイメージを印象づけることができます。厚生労働省は、男性の育児休業取得率を2025年までに30%にすることを目標に掲げており、今後はさらなる改正が行われることも予想されます。男性も育児休業を取得しやすい職場環境づくりを進めるとともに、企業の経営戦略や採用戦略においてもひとつの指標として活用してみてはいかがでしょうか。
<都道府県労働局>
リーフレット
「2023年4月から従業員が1000人を超える企業は男性労働者の育児休業取得率等の公表が必要です」 - 対象となる企業
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2023年1月13日
<解説動画あり>賃金のデジタル払いが2023年4月に解禁されます
*解説動画はこちら2023年1月号 2023年4月 賃金のデジタル払い
賃金の支払方法について労働基準法第24条では通貨払いが原則となっていますが、例外として労働者の同意を得た場合には労働者が指定した銀行口座や証券総合口座に振り込むことが認められています。この度、労働基準法施行規則の一部を改正する省令が公布され、2023年4月より資金移動業者(〇〇Pay等)への資金移動による賃金支払い(賃金のデジタル払い)も認められることとなりました。ここでは、今後、会社に求められる対応について解説いたします。
■デジタル払いができる資金移動業者とは
賃金のデジタル払いとは、給与を現金や銀行口座への振込によらず資金移動業者の口座へ資金(給与)を移動することにより賃金を支払う方法です。資金移動業者とは、銀行等以外のものが為替取引(現金輸送によらない送金)を業として行うものであり内閣総理大臣の登録を受けなければなりません。賃金のデジタル払いでは、この内、一定の要件を満たす厚生労働大臣の指定を受けた「指定資金移動業者」に限り、従業員が口座として指定することが可能となります。■会社に求められる対応は
(1)労使協定の締結
労働組合または労働者の過半数を代表する者と対象となる従業員や対象となる賃金や金額の範囲、実施開始時期などについて労使協定を締結することが必要です。
(2)従業員への賃金支払い口座の選択肢の提示
資金移動業者の口座への賃金支払いを強制することはできません。また、資金移動業者の口座のみを提示することも禁止されており、労働者が銀行口座または証券総合口座への賃金支払いも併せて選択できるようにする必要があります。
(3)従業員への説明
銀行との違いや具体的な仕組みや留意事項(口座の上限額や破綻時の補償、アカウントの有効期限)などについて従業員に説明することが求められます。
(4)従業員の同意取得
従業員が資金移動業者の口座への支払いを希望する場合、同意書を取る必要があります。給与のデジタル払いはあくまでも選択肢の一つであり会社にデジタル払いを強制するものではありませんが、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、賃金のデジタル払いのニーズは高まっていくことが予想されます。導入するかどうかの検討を含め、随時、最新情報に注視しながら早めに対策を講じるようにしましょう。
(厚生労働省 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html -
2022年12月14日
職業安定法が改正され、労働者の募集を行う際のルールが変わります
*解説動画はこちら2022年12月号 職業安定法の改正
2022年10月1日より、改正職業安定法が施行されました。求職活動におけるインターネットの利用が拡大する中、求職者が安心してサービスを利用できるよう、主にウェブ上の求人サービス等を対象にした労働者の募集を行う際のルールを明確にすることが改正の目的です。今回は改正のポイントおよび企業に求められる対応について解説いたします。
- 求人情報等の的確な表示の義務化
求人等に関する下記の情報について、虚偽または誤解を生じさせる表示を禁止し、的確な表示が義務付けられました。
(1)求人情報 (2)求職者情報 (3)求人企業に関する情報 (4)自社に関する情報 (5)事業の実績に関する情報
【虚偽表示の例】
・実際に募集をおこなう企業と別の企業の名前で求人を掲載する。
・実際の賃金よりも高額な賃金の求人を掲載する。
【誤解をさせる表示の例】
・営業職中心の業務を「事務職」と表示する。
・固定残業代を採用する場合に、基礎となる労働時間数等を明示せず、基本給に含めて表示する。
また、求人情報については正確かつ最新の内容に保つため「変更があれば速やかに変更を行う」「いつの時点の情報なのかを明らかにする」などの措置を講じることが求められます。 - 個人情報の取扱いに関するルールの整備
求職者の個人情報を収集する際には、個人情報を収集・使用・保管する目的をウェブサイトに掲載するなどの方法で明らかにしなくてはなりません。
【目的明示の例】
・「当社の募集ポストに関するメールマガジン配信のために使用します」と表示する。
・「面接の日程に関する連絡に使用します」と表示する。
本改正は自社のホームページやウェブメディア等で求人情報の公開を行っている企業にとって対応が必要となりますが、的確な情報を公開することによってマッチング機能が向上することは労働者を必要としている企業にとって望ましいことといえます。現在掲載している求人情報がある場合は、内容や更新体制について見直しを行い、法改正に対応できているか確認を行いましょう。
(厚生労働省「労働者の募集ルールが変わります」)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000984586.pdf - 求人情報等の的確な表示の義務化
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2022年11月14日
中小企業に対する月60時間超の残業割増賃金率引き上げへの対応
*解説動画はこちら2022年11月号 2023年4月 割増賃金率の引き上げと実務対応②
大企業ではすでに1か月60時間を超える法定時間外労働に対する割増賃金率が50%以上とされていますが、令和5年4月からは中小企業にもその適用が拡大されます。そこで今回は適用拡大に向け、必要となる対応を解説いたします。
- 労働時間の適正な把握
1か月60時間超の時間外手当を適正に支払うためには、日々の時間外労働の時間数を管理するだけでなく、法定休日と法定外休日を区分けし、カウントの対象となる時間を正しく抽出する必要があります。勤怠状況を正しく記録できる勤怠システムの導入は、社員の労働時間を適正に把握することに有効です。 - 残業抑制・業務効率化の検討
残業を削減する取り組みも進める必要があります。業務フローの見直しによる業務効率化やノンコア業務のアウトソーシング化に加えて、時間外労働の警告基準(時間)を設定し、警告値を超えた時点で従業員本人とその上司に報告、指導を行う方法も有効です。こちらも勤怠システムを活用することで効率的に行うことが可能となります。 - 就業規則の変更
割増賃金率の変更は就業規則への明記が必須です。事前に改訂を行い、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。 - 代替休暇制度導入の検討
1か月60時間を超える法定時間外労働を行った社員の健康を確保するため、引上げ分の割増賃金を支払う代わりに有給の代替休暇を付与することが可能です。代替休暇制度の導入にあたっては労働者の過半数で組織する労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結することが必要です。
時間外労働が多い中小企業の会社にとって、割増賃金率の引き上げは人件費の大幅な増加につながります。今の内から時間外労働の削減に向けた取組みを進めましょう。
<厚生労働省>
リーフレット「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf - 労働時間の適正な把握
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2022年10月15日
短時間労働者への社会保険適用拡大
*解説動画はこちら2022年10月号 2022年10月 社会保険の適用拡大
2022年10月より社会保険の適用範囲が拡大され、社会保険の被保険者数が100人超の事業所(特定適用事業所)で働く短時間労働者は、社会保険の被保険者となります。また、2024年10月にはさらに適用範囲が拡大され、被保険者数50人超の事業所が対象となります。
ここでは、短時間労働者の要件を確認するとともに、今後、特定適用事業所に該当・非該当となった場合の手続きについて確認します。- 短時間労働者の要件
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が2ヵ月超見込まれること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
- 施行日以降に100人を超えた場合
10月1日以降、被保険者の総数が直近11か月のうち5か月100人を超えた場合、日本年金機構より「特定適用事業所に該当する可能性がある旨のお知らせ」が送付されます。その後、特定適用事業所に該当する場合には「特定適用事業所該当届」の提出とあわせて、資格取得する短時間労働者がいる場合には「被保険者資格取得届」を提出します。特定適用事業所に該当したにもかかわらず、上記届出を行わなかった場合は、日本年金機雇用より「特定適用事業所該当通知書」が送付されます。 - 特定適用事業所に該当しなくなった場合
使用される被保険者数が常時100名を下回った場合であっても、引き続き特定適用事業所として取り扱われます。特定適用事業所ではないことを申し出る場合には、使用される被保険者の4分の3以上の同意を得たことを確認できる書類を添えて、「特定適用事業所不該当届」を届け出る必要があります。また、短時間労働者については「被保険者資格喪失届」の提出が必要です。
施行日以降は、気付かないうちに特定適用事業所に該当していたというケースも想定されます。適切な対応ができるよう、今一度、被保険者数や短時間労働者に該当する人の有無等を確認しましょう。
<厚生労働省>
社会保険適用拡大特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/index.html
<日本年金機構>
短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(令和4年10月施行分)
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.files/QA0410.pdf - 短時間労働者の要件
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2022年9月14日
令和4年 年末調整の改正ポイント
今回は、本年の年末調整に関する税制改正ポイントについて解説いたします。変更点は以下の2点です。
- 生命保険料等の控除証明書に加えて、本年から社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除に係る控除証明書も、電子データでの提出が可能となります。また、電子データの提出方法に「電子証明書に記録された情報の内容と、その内容が記録された二次元コードの付与された出力書面」が加わりました。
これにより、国税庁が提供する「QRコード付証明書等作成システム」を利用して、電子データからQRコード付控除証明書を作成し、書面で提出することが認められることになります。 - 非居住者の扶養親族に係る扶養控除について、適用要件が変更になります。30歳以上70歳未満の扶養親族で、以下の要件にいずれも当てはまらない方は扶養親族に該当いたしません。
(イ)留学により国内に住所及び居所を有しなくなった方
(ロ)障害者
(ハ)扶養控除の適用を受けようとする居住者からその年において生活費又は
教育費に充てるための支払いを38万以上受けている方上記のうち、(イ)または(ハ)に該当するものとして扶養控除を受けようとする場合は、その事実を証明する書類の提出が必要になります。
(例.留学ビザ等相当書類、38万円以上の送金関係書類)1.は本年の年末調整から、2.は令和5年分の扶養控除申告書受領時から適用されます。また、2.に伴い、令和5年分の給与所得者の扶養控除申告書のフォーム変更が予定されています。引き続き今後の動向を確認しましょう。
<国税庁>
源泉所得税の改正のあらまし 令和4年4月
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0022004-066.pdf
変更を予定している年末調整関係書類
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index/0022007-058.htm - 生命保険料等の控除証明書に加えて、本年から社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除に係る控除証明書も、電子データでの提出が可能となります。また、電子データの提出方法に「電子証明書に記録された情報の内容と、その内容が記録された二次元コードの付与された出力書面」が加わりました。
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2022年8月15日
子育てパパ支援助成金について
*解説動画はこちら2022年8月号 出生時育児休業制度(産後パパ育休)
2022年の育児・介護休業法の改正に伴い、両立支援等助成金(出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金))の制度内容が変更されました。この助成金には、第1種と上乗せにあたる第2種がありますが、今回は第1種について解説いたします。
- 制度の概要
男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境整備や業務体制整備を行い、男性労働者の育児休業制度の利用があった事業主に対して助成を行います。 - 主な要件
- 雇用環境整備の措置を複数実施すること
- 男性労働者が、子の出生後8週間以内に開始する連続5日以上の育児休業を取得すること
- 育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに係る規定を策定し、当該規定に基づき業務体制の整備をしていること
- 対象
中小企業のみ - 助成額
20万円(1事業主1回限り)
2.(1)は具体的に、次のうちいずれか2つ以上を実施することが求められます。
- 雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
- 育児休業に関する相談体制の整備
- 雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集及び当該事例の提供
- 雇用する労働者に対する育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に関する方針の周知
また、育児休業取得者の業務を代替する労働者を新規雇用(派遣を含む)した場合、助成額が加算されます。
代替要員加算:20万円(代替要員が3人以上の場合は45万円)出生時育児休業(産後パパ育休)の新設に伴い、男性の育児休業取得者の増加が見込まれます。助成金などを活用しつつ、職場環境の整備を進めましょう。
<厚生労働省>
「両立支援等助成金(出生時両立支援コース、育児休業等支援コース)が令和4年度から変わります」
https://www.mhlw.go.jp/content/000927768.pdf
「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)Q&A (2022年度版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000966235.pdf - 制度の概要
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2022年7月14日
男女間賃金格差に係る情報開示の義務化
2022年7月8日、女性活躍推進法に基づく省令改正により、男女間の賃金差の開示が企業に義務付けられました。従来、女性活躍推進法では、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に「管理職に占める女性労働者の割合」等の厚生労働省令で定める項目のうち、2つ以上を公表することを義務付けていました。
今回の改正により、従来の2項目に加えて「男女の賃金の差異」という項目を開示することが必須となりました。ここでは、今後企業に求められる対応について解説いたします。- 対象企業
常時労働者301人以上の企業に対し、男女の賃金の差異の情報開示が義務付けられます。
なお、情報開示は事業主ごと(企業単位)に求められます。 - 賃金の差異の求め方
男女の賃金の差異は、絶対額ではなく、男性労働者の賃金の平均に対する女性労働者の賃金の平均を割合で開示します。全労働者・正規雇用・非正規雇用の3つの区分について、それぞれ男女別の年間平均賃金を算出し、女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で割った数字を、男女の賃金の差異として示します。 - 開示の時期
改正省令施行日以後に終了する事業年度の実績を速やかに公表します。「速やかに」とは、事業年度が終了した後、おおむね3か月以内を指します。
(例1)事業年度が4月~翌年3月の場合
2022年4月~2023年3月の実績をおおむね2023年6月末までに公表
(例2)事業年度が8月~翌年7月の場合
2021年8月~2022年7月の実績をおおむね2022年10月末までに公表
なお、情報公開にあたっては、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や自社のホームページ等をご活用ください。適切な対応ができるよう、今から準備を進めましょう。
<厚生労働省>
令和4年7月8日 雇均発0708第2号「男女の賃金の差異の算出及び公表の方法について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000962287.pdf「女性の活躍推進企業データベース」
https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/ - 対象企業
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2022年6月14日
育児休業中の社会保険料免除の要件について
*解説動画はこちら2022年6月号 2022年10月改正対応・育児休業中の社会保険料免除手続
今回は2022年10月から見直される育児休業中の社会保険料免除の要件と届出事項の変更点に焦点を当てて解説いたします。
- 要件の変更内容について
毎月の社会保険料と賞与にかかる社会保険料で異なる基準が設けられます。- 標準報酬月額の保険料免除にかかる免除基準
現行の要件に加えて、同一月内に14日以上の育児休業等を取得した場合にも保険料の免除が適用されます。
(改正後要件)
以下のいずれかを満たすこと
・月末時点で育児休業等を取得していること
・同一月内で14日以上の育児休業等を取得していること - 賞与にかかる社会保険料
現行の要件が抜本的に変更され、改正後要件のみ認められます。
(改正後要件)
・連続して1か月超の育児休業等を取得していること
- 標準報酬月額の保険料免除にかかる免除基準
- 届出時の留意点について
免除の要件変更に伴い、届出の際に記載する内容が追加されます。- 届出の提出
保険料免除の基準に該当しない育児休業等について届出は不要です。同一月内に複数回の育児休業等を取得する場合は、その日数を合算し、保険料免除の要件に該当することとなった育児休業等の取得時にまとめて届出をすることで保険料が免除となります。 - 追加記載事項
(イ)育児休業等取得日数
育児休業等の開始年月日と終了年月日の翌日が同一月内である場合、取得日数の記載が必要です。後述の(ロ)就労予定日数は取得日数に含められませんが、休日等の労務に服さない日及び一時的・臨時的に就労した日は含めることができます。
(ロ)就労予定日数
出生時育児休業(産後パパ育休)期間中に労働者と事業主の間で事前に調整して就業を行う場合、その日数を記載します。
(ハ)育休等取得内訳
同一月内に育児休業等を複数回取得した場合、取得したそれぞれの育児休業等の期間を記載します。
- 届出の提出
短期間の育児休業等であっても、複数回取得することで同一月内14日以上の要件を満たす場合も出てくるため、取得日数の管理が重要となります。適切なタイミングで届出が行えるよう準備を進めましょう。
<厚生労働省ホームページ>
「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律による健康保険法等の改正内容の一部に関するQ&Aの送付について」
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T220413S0010.pdf「事業主の皆さまへ 育児休業等期間中における社会保険料の免除要件が改正されます。」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/ikuji-menjo/20140327-05.files/ikujikyuugyou.menjyo.youken.kaisei.pdf - 要件の変更内容について
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2022年5月13日
企業型DC受給開始時期の拡大及び加入可能年齢の拡大について
*解説動画はこちら2022年5月号 年金制度に関する改正(2022年4月、5月施行)
2020年5月に成立しました年金制度改正法により、企業型確定拠出年金(以下「企業型DC」という)の改正が順次行われてきました。今回は、2022年4月以降に施行された主な改正点を2点取り上げます。
- 企業型DC受給開始時期の拡大(2022年4月1日施行)
従来、企業型DCの受給開始時期は60歳から70歳の間に限られていましたが、今回の改正により、上限年齢が75歳に引き上げられました。つまり、60歳の加入者資格喪失後から75歳に達するまでの間で、受給開始時期を選択することが可能になりました。 - 企業型DC加入可能年齢の拡大(2022年5月1日施行)
従来、企業型DCは、60歳未満の厚生年金被保険者を加入者としており、規約に定めるなど一定の要件の下で、65歳に達するまで加入者とすることができました。
改正後は、それらの要件が廃止され、原則70歳未満の厚生年金被保険者であれば、加入者とすることが可能になりました。なお、規約により、従来通り加入できる年齢の上限を定めることが可能ですが、この年齢上限を60歳より低い年齢とすることは認められていません。また、企業型DCの老齢給付金をすでに裁定請求した者は、再び企業型DCに加入することはできません。したがって、60歳以上の従業員を企業型DCに加入させようとする際には、すでに裁定請求していないか確認する必要があります。
この改正により、企業型DCをより柔軟に利用できるようになることで、老後の資産形成のため、より多くの企業や個人が制度を活用することが期待されます。
<厚生労働省ホームページ>
「2020年の制度改正」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2020kaisei.html - 企業型DC受給開始時期の拡大(2022年4月1日施行)
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2022年4月15日
くるみん認定・プラチナくるみん認定の認定基準改正について
*解説動画はこちら2022年4月号 くるみん認定・プラチナくるみん認定の認定基準改正について
2022年4月1日より、「くるみん認定」、「プラチナくるみん」の認定基準が改正されました。さらに、新たな認定制度もスタートしましたのでご紹介をいたします。
1.くるみん認定について
次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことで「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けることができます。これを「くるみん認定」といいます。また、「くるみん認定」を受けた企業のうち、より高い水準の取り組みを行い、一定の要件を満たした場合には「プラチナくるみん」認定を受けることができます。認定を受けた企業は、広告や名刺などの厚生労働省令で定めるものに「くるみんマーク」、「プラチナくるみんマーク」を付すことができます。2.認定基準の改正について
2022年4月より、次の通り認定基準が改正されました。
(1)くるみん認定基準
1) 男性の育児休業取得率
7%以上から10%以上へ引き上げ
2) 男性の育児休業等および育児目的休暇取得率
15%以上から20%以上へ引き上げ育児目的休暇取得率とは、男性労働者のうち、育児休業等を取得した者および企業独自の育児を目的とした休暇制度を利用した者の割合が合わせて何%であるか、という指標です。
(2)プラチナくるみん認定基準
1)男性の育児休業取得率
13%以上から30%以上へ引き上げ
2)男性の育児休業等・育児目的休暇取得率
30%以上から50%以上へ引き上げ
3)出産した女性労働者及び出産予定だったが退職した女性労働者のうち、
子の1歳時点在職者割合
55%以上から70%以上へ引き上げなお、認定基準の改正にあたり、くるみんマーク、プラチナくるみんマークのデザインも変更となりました。
3.新たな認定制度について
(1)トライくるみん制度の創設
トライくるみんの認定基準は4月改正前の基準のくるみん認定と同様で、エントリー用といえます。ただし、トライくるみん認定を受けていれば、くるみん認定を受けていなくても、直接、プラチナくるみん認定を申請することができます。(2)不妊治療と仕事との両立に関する認定制度の創設
上記3種類のくるみん認定に付加して、不妊治療と仕事の両立に取り組む企業を認定する「プラス」制度が創設となります。プラス認定の取得により、くるみんプラスマークとして、不妊治療と仕事との両立もサポートしていることも明示できるようになりました。今回の改正は主に男性の育児休業取得率の認定基準の引き上げが行われており、同じく4月以降、順次施行となる育児・介護休業法の改正の中に男性の育児休業取得の促進があることからも、今後ますます男性の育児休業取得率について注目が集まると考えられます。
くるみん認定を受けることによって「子育てサポート企業」としてPRすることができるため、優秀な人材の採用や定着が期待できます。今回の改正を機にくるみん認定を目指してみてはいかがでしょうか。
(厚生労働省「次世代法に基づく一般事業主行動計画について」)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11367.html -
2022年3月15日
在職中の年金受給の在り方の見直しについて
*解説動画はこちら2022年3月号 社会保険の適用拡大について on Vimeo
2020年5月に成立した年金制度改正法により、2022年4月から「在職中の年金受給の在り方の見直し」が適用されます。
この法改正は、少子高齢化が進み、多くの人が長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図ることを目的としています。「在職中の年金受給の在り方の見直し」の改正ポイントは以下の2点です。
- 在職老齢年金制度の見直し
在職老齢年金制度とは、60歳以上で在職中の老齢厚生年金受給者を対象として、賃金と年金の合計額が一定以上になる場合には年金の支給額を調整する仕組みです。つまり、賃金が高い労働者ほど、年金が減額されることになっています。
この、年金の支給調整が行われる基準額が、今回の改正点です。現行では、60歳~64歳は月額28万円、65歳以上は月額47万円ですが、改正後は、60歳~64歳についても、65歳以上と同じく月額47万円になります。 - 在職定時改定の導入
在職定時改定とは、65歳以上で在職中の老齢厚生年金受給者を対象として、毎年1回、年金額の見直しを行うために新設された制度です。現行では、在職中に厚生年金保険料を支払っても、年金額の見直しは行われず、退職時まで年金額は更新されない仕組みでした。
改正後は、在職中でも毎年9月1日時点での実績に応じて見直しを行うこととなり、毎月負担している保険料もこれまでより早期に年金額へ反映されることになります。
以上のように、年金額の支給調整の条件緩和や在職時の年金額改定の仕組みが導入されることで、年金受給年齢以後の勤労意欲の増進に繋がることが期待されます。<日本年金機構ホームページ>
「在職老齢年金制度の見直し」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2022/0228.files/zairou.pdf
「在職定時改定の導入」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2022/0228.files/teijikaitei.pdf - 在職老齢年金制度の見直し
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2022年2月14日
平成29年4月以来5年ぶりの雇用保険料率の改定
*解説動画はこちら2022年2月号 雇用保険から考えるシニア人材の活用 on Vimeo
労働者にとっての失業時や休職時の予防、即ちセーフティネットの役割を果たしているのが雇用保険です。新型コロナウィルスの影響が引き続くなか、従来以上に重要な役割を果たしています。
その雇用保険の保険料率が、平成29年以来、5年ぶりに改定される内容を盛り込んだ法律案要綱が発表されました。2022年2月1日の閣議で決定され、改定は確実な状況です。詳細は、次の通りです。
- 現行
- 一般事業 9/1,000(労働者負担:3/1,000 事業主負担:6/1,000)
- 農林水産 11/1,000(労働者負担:4/1,000 事業主負担:7/1,000)
- 建設事業 12/1,000(労働者負担:4/1,000 事業主負担:8/1,000)
- 令和4年4月~
- 一般事業 9.5/1,000(労働者負担:3/1,000 事業主負担:6.5/1,000)
- 農林水産 11.5/1,000(労働者負担:4/1,000 事業主負担:7.5/1,000)
- 建設事業 12.5/1,000(労働者負担:4/1,000 事業主負担:8.5/1,000)
- 令和4年10月~
- 一般事業 13.5/1,000(労働者負担:5/1,000 事業主負担: 8.5/1,000)
- 農林水産 15.5/1,000(労働者負担:6/1,000 事業主負担: 9.5/1,000)
- 建設事業 16.5/1,000(労働者負担:6/1,000 事業主負担:10.5/1,000)
労働者負担の増加も予定されています。ただし、コロナ禍における労働者の負担に配慮し、同年度中に二段階の引き上げという特例的な措置が取られるかたちとなりました。
労働保険料の計算など、従来より誤りを引き起こしやすくなっていますので、ご注意ください。 - 現行
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2022年1月13日
令和4年4月 中小企業の職場におけるパワーハラスメント防止措置の義務化
*解説動画はこちら2022年1月号 中小企業におけるパワハラ防止措置の義務化 on Vimeo
令和2年6月1日に施行された「改正労働施策総合推進法」は、職場におけるパワーハラスメント(以下パワハラ)の防止措置を、大企業において義務化しています。中小企業は努力義務に留まっていましたが、令和4年4月1日より義務化されます。
「職場におけるパワーハラスメント」とは、職場において次の3つの要素全てを満たす行為をいいます。
(1)優越的な関係を背景とした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
(3)労働者の就業環境が害されるものパワハラに該当するのかの判断は、個別事案ごとに総合的に考慮することになりますが、会社の責務として明確化された具体的な措置の内容は以下のとおりです。
- 事業主の方針等の明確化および周知・啓蒙
- 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
- 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
- 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
- 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適切に行うこと
- 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
- 再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も含む)
- 併せて講ずべき措置
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
- 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
パワハラ防止に向けた取り組みは、労使がハラスメントの定義を正しく理解することからはじまります。会社は、セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに社内体制や就業規則、対応マニュアルの整備に取り組み、万が一の際に機能する仕組みづくりを検討していく必要があります。
<厚生労働省:パワーハラスメント対策等>
特設ページ:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
事業主向けリーフレット:
https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/content/contents/hourei_power_harassment_r0404ibr.pdf - 事業主の方針等の明確化および周知・啓蒙